彼女は蜜を吸うときに、サクラソウの花冠につめを立ててしがみつきます。
その直後にはほとんど目立たないですが、数日たつと、強く圧力がかかった部分の組織が壊死し、白い斑点やひっかき傷としてつめあとが浮き上がってきます。
そのつめあとの有無を花が終わる頃に調査すれば、その場所で、サクラソウがマルハナバチの訪花をどの程度受けたかを知ることができます。
マルハナバチ女王の訪花がある所(訪花が観察され、多くの花につめあとがみられる)とない所(訪花が観察されず、花にはつめあとが全くみられない)で種子生産を調べてみると・・・
トラマルハナバチがいる場所では、長花柱花も短花柱花も比較的多くの種子を生産しますが、いない場所では、全体として種子生産は低く、花型の間の違いも目立つことがわかってきました。
一例として、今でもサクラソウの自生地が数多く残されている北海道南部での調査結果を紹介してみましょう。
ある筑波大学生は、3年間にわたって、サクラソウの花が咲き始める春から夏にかけて現地に滞在し、サクラソウの研究を続けました。
この場所で、20箇所のサクラソウ個体群を対象として、サクラソウの花の時期の生物間相互作用とサクラソウの種子生産について、いくつもんも項目にわたる詳細な調査を行いました。
そして、サクラソウの種子生産には、トラマルハナバチ女王の訪花を個体群の大きさの両方が大きな影響を与えていることを示すデータを得たのです。
牧場開発で孤立化してしまったサクラソウのクローンは、種子が充分にできません。
他方、クローンがたくさんある自生地でも、トラマルハナバチの女王の訪花がない場所では種子はできません。
つまり、サクラソウにとっては、実際に2つのパートナーのいずれがかけても、繁殖に支障をきたす可能性のあることがはっきり示されたのです。
ある程度の大きさの個体群が確保され、しかもトラマルハナバチの女王が花を訪れはじめて、サクラソウは種子を生産して健全な繁殖を営めるのです。